仙台高等裁判所 昭和27年(ネ)118号 判決
控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、被控訴代理人において、
一、本件除名の議決が違法であると主張する事由は、要するに
(一)、昭和二十六年七月二十六日招集の村議会で議長であつた被控訴人が開会を宣しなかつたのは、同月十八日の臨時会で控訴人不信任の議決があつたとかいうことを聞いたので、議長の職務を行つてよいかどうかを決するため、不信任議決の有無を各議員に確めている間に昼食時刻となり、議員が帰宅した等の関係から判然聞き糺すことができず、とかくしている間に時間を過し、遂に開会するに至らなかつたもので、開会に至らなかつたのは、むしろ多数議員の不協力に基くもので被控訴人が徒らに職権を濫用して開会しなかつたのではないのみならず、被控訴人が開会を宣することなく流会となつたとしてもその事自体は審議権の妨害とはならない。しかも地方自治法においても丸守村議会会議規則においても審議権の妨害を懲罰事由としていない。
(二)、不信任の議決は単なる出席議員の事実上の意思の表明たるに止まり、法律上の効果は生じない。従つて仮に被控訴人が不信任議決を無視したとしても、それが地方自治法第百三十一条の「議場の秩序を乱し又は会議を妨害した」ことに当らない。
(三)、議長、副議長ともに事故があつて、議長の職務を行うものがないときは、村議会会議規則に反対の規定がない限り年長者をして臨時に議長の職務を代理させ、その下で仮議長を選任するか、又は年長の議長職務代行者に委任して仮議長を決すべきである。然るに丸守議会会議規則には反対の規定がないのにも拘らず、控訴人議会は本件除名議決をした昭和二十六年七月三十一日の議会で、議長、副議長ともに事故があつたので、年長者である議員国分長太を臨時に議長の職務を代行するものとしたが、その後仮議長を選挙することなく、又年長職務代行者国分長太に委任して仮議長を決定した事実もなく、国分長太が仮議長として本件除名議決をしたのは違法である。
(四)、甲第一号証の三及び乙第四号証の二の「丸守議会議員橋本富芳除名の件」なる文書には、提案者及び賛成者として議員数名の名が列記してはあるが、甲第一号証の二「議案第一号」には明らかに「丸守村議会仮議長国分長太」と記載されてあるから、本件除名議案は丸守村議会仮議長国分長太が提案したものと認むべきである。而して地方自治法第百十二条第一項の「議員」には議長を包含しないものと解すべきであるから、議長名で提出された議案は議案として適当でない。従つて不適法な議案に基く本件除名議決は違法である。
(五)、控訴人議会が昭和二十六年七月三十一日の臨時会で、同月二十六日の臨時会における被控訴人の行動を取り挙げて除名議決をしたものであることは、前記「丸守村議会議員橋本富芳除名の件」及び「除名理由書」の記載に徴し明らかな事実で、これは地方自治法第百十九条の「会期中に議決に至らなかつた事件は後会に継続しない」との会議不継続の原則に違反した違法なものである。
二、昭和二十六年七月三十一日の村議会において、被控訴人が副議長福島昇に退場を命じたことは認める。同日議長たる被控訴人が出席し何等の事故がなかつたのに福島昇が議長席を占め退席しなかつたので、退席を命じたのである。
と述べ、控訴代理人において、
本件除名議決は被控訴人の行動が丸守村議会会議規則第五十六条第四号に該当するものとして、なされたものである。
と述べた外は、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
(各証拠省略)
三、理 由
被控訴人が控訴人議会の議員且議長であつたところ、控訴人議会が昭和二十六年七月三十一日の臨時会において、被控訴人が、
イ、同年七月二十六日の臨時会召集日において、多数議員の開会要求があつたにも拘らず、同月十八日の臨時会で議長不信任を議決した方法に手落があるとかを云々して開会せず、副議長福島昇が開会を宣しようとしたところ、被控訴人は議長には何等事故がないといつて議会の開会を妨害し、議員の議案審議権を完全に無視する態度にでた。
ロ、同月十八日の臨時会において、被控訴人に対し不信任の戒告を与えておいたのにも拘らず、右のように少しも反省の色がなく戒告を無視して村議会の運営を敢て妨害した。
のは、地方自治法第百三十一条に違反する。との理由で被控訴人を除名する旨の議決をし、その議決が即日被控訴人に通告されたこと、は当事者間に争がない。
よつて被控訴人が右除名の議決は違法であると主張する事由について順次判断する。
(一)、成立に争のない甲第一号証の一乃至四、乙第一号証、同第二号証の一、二同第三号証、同第四号証の一、二、同第五号証の各記載、原審証人佐藤長生、吉田安寅、原審及び当審証人福島昇、当審証人佐藤新之介の各証言並に原審及び当審における控訴人議会代表者古河近衛尋問の結果、原審における被控訴本人尋問の結果の一部を綜合するに、控訴人丸守村議会においては、昭和二十六年六月三十日臨時会を招集
一、議案第一号丸守村中学校建設費予算更正の件
一、議案第二号昭和二十四年度丸守村歳入歳出決算認定の件
一、議案第三号昭和二十六年度丸守村歳入歳出予算の件
一、議案第四号丸守村固定資産評価員選任について同意を求める件
について、審議することとなつたが、当日被控訴人は丸守村議会議長として議案第一号を審議したのみで、固定資産評価員選任につき不満ありとし、多数議員の時間延長及び審議継続の要求があつたにも拘らず他の重要議案特に議案第三号は、昭和二十六年七月一日からの暫定予算であつて、これを審議しなければ翌日より村政執行上重大な支障を来すこと明かであるのに、審議を打切り閉会を宣して退場し、議員定数の半数以上の者から開会の請求があつたのに会議を開かないので、やむなく地方自治法第百十四条、第百六条第一項により副議長福島昇が議長の職務を行つて議会を再開し審議したこと、控訴人議会は同年七月十八日の臨時会において、被控訴人の右行動は重要議案の審議権を妨害し、議会の運営に大なる支障を与え、村政を混乱に陥れるものであるとして、議長である被控訴人の不信任を議決したこと、被控訴人議会は同月二十六日午前九時「議案丸守村職員の給与勤務時間その他旅費等に関する条例設定の件」外四件の議案審議のため招集せられ、被控訴人始め議員全員が定刻に参集し、大多数の議員から開会の要求をしたにも拘らず、被控訴人は「俺を不信任したから開会しない、不信任議決の手続には手落がある、知らなければ教えてやる。」等と放言して開会しようとしないので、議員の要求により副議長が議長の職務を行い開会しようとしたところ、被控訴人は「議長に何等事故がないのに副議長が議長の職務を行うことはできない。開会しようとしまいと議長の俺の権限である。」といつて開会を阻止し、遂に流会に至らしめたこと、そこで控訴人議会は同月三十一日招集せられた臨時会において、仮議長国分長太の下に、提案者議員古河近衛外四名賛成者議員佐藤長生外七名の前示除名理由の議案『丸守村議会議員橋本富芳除名の件』が提案せられ、出席議員十四名(定員十六名)中議長を除き、賛成十一名反対二名で可決せられ、被控訴人が丸守村議会議員を除名せられるに至つたこと、が認められ、右認定に反する原審証人穂積藤栄、西館与祖右衛門、原審及び当審証人橋本庄次郎の各証言、原審及び当審における被控訴本人尋問の結果は、採用し得ないし、その他の証拠によつては、右認定を左右することができない。
以上の事実関係に徴すれば、被控訴人の昭和二十六年七月二十六日の行動は、正に議長の職責に関する地方自治法第百四条の法意に背き同法第百十四条の規定の趣旨を無視し、且つ丸守村議会会議規則第六条に違反するものといわなければならない。けだし議会制度は、民主国家の下における政治形態の重要な要素の一であつて、その基調とするところは、多数意見の尊重であることは、その制度の性質上当然のことといわなければならない。おもうに被控訴人の昭和二十六年六月三十日の臨時会における前記行動は、多数意見を無視し結局において議会の審議権を妨害したものと断じ得るところであつて、被控訴人議会がこれを取り上げ、同年七月十八日の臨時会において、被控訴人の不信任を議決したことは、事情やむを得なかつたものと認めざるを得ない。然るに被控訴人は何等反省することなく却つて同月二十六日招集せられた臨時会を、右不信任の議決を不満として流会に至らしめたことは、多数意見の尊重を基調とする議会制度の本旨を蹂躙するに至つたもので、前掲各法案の趣旨に反するものと認めざるを得ないからである。
(二)、不信任議決の効力について、直接法律上規定がないことは、被控訴代理人主張のとおりであるが、議会制度の本質が前記説明のとおりである以上、被控訴人が多数議員の意思表示である不信任議決を無視し、何等反省の色なくして前示のような行動にでたことは、失当といわざるを得ない。
(三)、前掲挙示の各証拠によれば、昭和二十六年七月三十一日の臨時会における議案は、被控訴人の除名に関する件一件のみであつたので被控訴人は議長として開会を宣し、会議録署名議員を定めた後、一身上に関する事件についての議事であるとして退場し、副議長福島昇も亦これよりさき、被控訴人から退場を命ぜられていたので、議長、副議長ともに事故あることとなつたので、六番議員の発議により、年長者議員国分長太をして臨時議長の職務を行わせ、七番議員の発議により、国分長太を仮議長に選任し、同議長の下に本件除名の審議をしたことが認められる。尤も同日の会議録(乙第四号証の一)には、六番「議長が退場したので年長者二番議員国分長太を仮議長にしたい、」云々、七番「現在年長者により仮議長を選任したのであるが現在の仮議長を以つて議事を進行したい、」と記載せられてあるが、同会議録を通読し、前記証人国分長太の証言控訴人議会代表者古河近衛の供述を併せ考えるときは、右の記載は結局前記認定の趣旨であることが認められるので、この点に関する被控訴人の主張も理由がない。
(四)、前示乙第四号証の一、二の記載、原審証人吉田安寅、当審証人佐藤新之介の各証言によれば右七月三十一日の臨時会において、被控訴人の除名に関する議案を審議するに当り、各議員に誤つて除名理由書のみを配付したので十五番議員から「理由書は議案でないから審議する必要がない、」との発言があつたので、議長は一旦休議し、再開後更めて、提案者議員古河近衛外四名、賛成者議員佐藤長生外七名の「丸守村議会議員橋本富芳除名の件」と題する議案に除名理由書(乙第四号証の二)を添付して提出したもので、甲第一号証の二を議案として提案したものでないことが認められるので、被控訴人の同主張も採用しない。
(五)、次に被控訴人の本件除名議決は会期不継続の原則に違反するとの主張につき按ずるに、地方自治法第百一条第一項に、「普通地方公共団体の議会は、普通公共団体の長かこれを招集する。」と規定し、同法第百二条第六項に「普通地方公共団体の議会の会期及びその延長並にその開閉に関する事項は議会がこれを定める。」との規定から考え村議会は、村長が招集し、議員が一堂に集つたのみでは未た会期が開始したものとはいえないものと解する。即ち議会が開会して議決し得る体制が整い始めて会期の開始あつたものと解すべきである。丸守村議会は、昭和二十六年七月二十六日午前九時同村長の招集により議員全員が所定の会場に参集はしたが、遂に開会に至らなかつたこと前認定のとおりであるから、右七月二十六日の会期なるものは存在しなかつたものといわなければならない。又議会の懲罰権なるものは、議場の秩序を保持し、議事の円滑なる運営のために与えられたるものと解せられるから、議会が議会と直接関係のない議員の非行を捉えて懲罰を科することは許されないものと解すべきであるが議会の運営に直接関連する行動については、たとえ会期中の行為でなくとも懲罰の対象となり得るものと解する。本件除名の事由たる昭和二十六年七月二十六日における被控訴人の行動は、会期中の行為ではないが、議会の運営に直接重大な影響を及ぼしたものであるからして、右被控訴人の行動を対象として、その後に始めて開かれた会議において、控訴人議会が被控訴人に懲罰を科したことは、違法とはいえない。而して右は地方自治法第百十九条の規定に違反するものではないことは、上記認定の事実関係に徴し明らかである。
以上説明のとおりであるから、控訴人議会が被控訴人の昭和二十六年七月二十六日における前記行動を目し丸守村議会々議規則第五十六条第四号に該当するものとして、同規則第五十七条第四号により除名処分に附したことは違法ではない。従つて昭和二十六年七月三十一日に控訴人議会のした被控訴人を除名する旨の議決の取消を求める被控訴人の本訴請求は失当で、右請求を認容した原判決は不当である。
よつて、本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三百八十六条、第九十五条、第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 谷本仙一郎 猪瀬一郎 石井義彦)